楽曲一覧

一月ノ札

「松風に告げる」

平安の世で生き別れたお鈴を、夢を手がかりに探し続ける錬。お鈴は何度も転生を繰り返すが、錬は不老不死のまま。時が経つほどに薄れていく記憶を繋ぎ止めながら、たった一人で静かに生き続けている。

二月ノ札

「うぐいすの嗚咽」

遊郭で育ち、歪んだ愛しか知らないお鈴。胸を締めつけるこの想いが何なのかも分からぬまま、想い人への気持ちだけが募っていく。そんな中、梅毒に侵されてしまった彼女は、大切な人を傷つけぬよう、そっと身を引く決意をする。

三月ノ札

「さくら浮世」

理想の花魁を演じ続け、偽りの笑顔を作る美空太夫。終わりの見えない日々に心はすり減り、本心すら忘れることで傷つくことを避けてきた。それでも、夜は終わることなく繰り返されていく…。

四月ノ札

「ほととぎすの契り」

禿と姉女郎として、長い年月を家族のように過ごしてきた二人。 地位と責任を背負う美空太夫と、その背中を見つめながらも、どこか心の距離を感じていたお鈴。 病を患ったお鈴は、心配する美空太夫の手を、あえて拒みました。それは、家族愛か、友愛か、恋愛か。名前をつけることに、意味はあるのでしょうか──。

五月ノ札

「杜若に八橋」

『伊勢物語』に登場する「杜若(カキツバタ)と八橋」の取り合わせは、日本の芸術に広く用いられてきました。八橋とは、小川にジグザグに渡された橋板のことです。 花札に描かれるのも水辺に咲く杜若ですが、「勝負」との語呂合わせから、似た花である「菖蒲」として呼ばれることが多かったようです。

六月ノ札

「牡丹に蝶」

中国の宮廷で古くから愛され、「百花の王」と称された牡丹は、富貴の象徴とされてきました。また、「丹」の字には、不老不死の仙薬という意味もあります。そんな牡丹と組み合わされる蝶は、卵・幼虫・蛹・成虫と姿を変えることから、復活や輪廻転生を象徴する吉祥文様とされました。死しても蘇る力を示すためか、戦国武将の甲冑にも用いられています。

七月ノ札

「萩に猪」

萩は、吉田兼好の徒然草において「臥猪の床(ふすいのとこ)」と呼ばれています。これは凶暴な猪であっても伏して休む場所、ということで、広義では天下泰平の意も表します。花ノ札紀では、猪ではなく「ブーツ」の意匠を取り入れました。7月からは文明開化の後の時代が舞台となります。果たして、泰平の世は訪れているのでしょうか?

八月ノ札

「芒に月」

この札は本来、芒(ススキ)の山と月が組み合わされた図柄ですが、当時の印刷技術の不鮮明さから、山部分が黒一色に見えることが多く、「坊主」という異称を持ちます。ススキは茎の中が空洞であることから、神が宿る依代とされ、豊穣への感謝を捧げる月見の行事で用いられてきました。しかし花ノ札紀では、ススキの代わりに誰かのシルエットが描かれています。これは一体……?

九月ノ札

「菊に盃」

「菊に盃」は、九月九日の「重陽の節句」を描いた一枚です。この節句では、菊の花を浮かべた「菊酒」を飲み、不老長寿を願いながら邪気を払う風習があります。菊は古くから長寿の象徴とされ、「千代見草」という異名を持ちます。その象徴性は、能の演目にもなった伝説『菊慈童』にも見られ、お経を書いた菊の葉から滴る露を飲んだ少年が不老不死になったと伝えられています。

十月ノ札

「鹿に紅葉」

牡鹿は秋になると甲高い声で鳴き、遠くの山々に響き渡ります。その鳴き声は、秋の物悲しさや切ない恋心を象徴するものとして、古くから和歌に詠まれてきました。 花ノ札紀では、この鹿の図柄に代わり、文明開化を象徴する「鹿鳴館」を連想させる西洋館の意匠を取り入れています。

十一月ノ札

「柳に錬」

花ノ札紀では、錬の後ろ姿が描かれたこの札。元の図柄には、小野道風にまつわる浄瑠璃の逸話が取り入れられていますが、その変遷には多くの謎が残されています。 また、十一月のカス札には「鬼札」という特殊な札が存在します。トランプでいうジョーカーのような役割を持つ札であり、こちらもその起源には諸説あります。 謎の多い十一月ですが、花ノ札紀の物語においても重要な鍵を握る月となっています。

十二月ノ札

「桐に鳳凰」

鳳凰は鳥類の王とされる伝説の霊鳥で、古来より吉祥文様として尊ばれてきました。その鳳凰が止まる木とされるのが青桐で、不朽を象徴するこの木もまた、高貴な紋章として戦国武将の家紋などに用いられています。 花ノ札紀では、花札を持つ手元と紫の着物の袖が、鳳凰の姿に見立てられています。一体これは誰を表しているのか——。物語の終結を、どうぞお楽しみに。